「ウェブ進化論」 を読んで

梅田望夫さんのウェブ進化論を読んだ。

期待を上回る面白さで、あっという間に読み終えてしまった。

発売日の次の日に買って、2日で読み終えたのだけど
はてなのプレゼントキャンペーンに応募しているから書評を書くのは待とう、
と思っていたが、見事にはずれてしまったので読後感が新鮮なうちに書いておこうと思う。


僕は世間の平均よりは本をたくさん買ったりする方の部類だと思うが、
「発売日に本が買えない」という経験を初めてして、
小学生の頃にドラクエを買いに東奔西走していたことを思い出した。
その過程で、
最近「モノ」を買うのにこんなにときめくことはなくなったな
と感じたのだが、それは自分が年をとったせいだけではなくって、
世の中のモノの売り方、モノの価値観が変わってきたせいだなと思い至った。


ウェブ進化論」の感想に入る前に、
この話だけで終わってしまいそうなので、この続きはまたの機会にとっておく。



さて、「ウェブ進化論」。

ネットの世界に浸っている人間ならば、
大体知っているようなことを分かりやすく書く、といった趣旨が強かったが
それ以上に得るものは多かったと思う。


僕自身としては、新たな知識を仕入れたというよりも、
現在のネット社会の様々な事象の立ち位置、勢い、関係性などがはっきりしたことが大きい。


本全体を通して、梅田さんが発していた(というか僕が受け取れた)メッセージは以下の3つ。

  1. ネット(あちらの)世界の自動秩序形成の出現
  2. 「ことば」の大事さ
  3. コンサルタント、VCとしての経験からの冷静な現状認識


1つ目の、自動秩序形成装置というのは
僕がこのブログを通じて、ぼんやりとしたイメージを言わんとしていることを
とてもキレイに言われた感があり、嬉しいやら悔しいやら。
もちろん全く重なるわけではないが。


梅田さんが考えている自動秩序形成というのは、
「(Googleのような)誰かが能動的に仕掛ける仕組み」という印象を受けた。
ポッドキャスト配信された出版記念のブロガーイベントの話を聞いていると、
もっと広い意味で捉えられているようにも感じたが。)


僕の考えとしては、
ネットの中に玉石混交で溢れる「情報」の自動秩序をもたらすのに
一番重要なのは、「場」だ。
「能動的に情報を集め回って整理する何か」ではなくって
「適度な影響度で相互作用しあえる情報がたくさん存在する場所」には
自然にある秩序が生まれると信じている。


なぜかって、それは3年間ほとんど毎日 細胞を見ていたから(^^)
ふざけているのではなくって、
バラバラの細胞が徐々に集まっていて、血管やら臓器やらを
「自発的に」形成していく過程、自己組織化というのを目で見てきたからだ。


僕が思うWeb2.0的な現在のネット社会は、
色々な種類の細胞が、シャーレにバラバラに存在している状態だ。



↑こんな感じ。


これを適正な「場」において育ててやれば、
放っておいてもこのような組織を勝手に形成してくれるのだ。


もちろん、この過程は現在の生物学のもっともアツイ分野の1つなので
その詳細なメカニズムなどについてはほとんど明らかにはなっていない。


ただ、僕は院生時代にこういう現象を追っていて、
複雑系」「自己組織化」という概念がもつ説得力をなんとなく体感している。


この写真は肝臓の細胞が自己組織化していくものだが、
脳の神経が絡み合って「意識」が形成されるのも、
根本的な原理は同じではないかと僕は妄想している。


そしてネット社会に溢れる情報も。。


ただ、今はそれが生まれる「場」ができているとは言えないし、
情報の量も、情報同士の相互作用というものも足りないように思う。



そこで、2つ目の「ことばの大事さ」という話につながってくる。


梅田さんが本の中で言われていることで印象的だったのは
(正確な引用ではないが主旨として)、
「今のネット社会の状況を大体理解している人の数はまだまだ少なくて、
その一部の人たちが自分たちだけで盛り上がっていても、社会は変わらない。
大衆を、大組織の幹部クラスを動かして世の中を変えるには
言を尽くしてこの新しい価値観を伝えなければならない。」
といったようなことだ。


おそらく梅田さんが経験されたと言われているように、
Googleのことをいくら熱く語っても、すぐにピンときてくれる人は本当に少ない。


うちの両親(60代)には何回も、それなりのの時間をかけて話しているが
たぶんGoogleっていうのが会社で、
なんかタダで色々と便利なことを提供している、
くらいの認識だろう。
まぁ、仕方ない(僕のプレゼンもいけないのだろうし)。


それよりショックなのは、同世代の人たちも
僕の周りの人たちはほとんどこの辺に興味が無いのだ。
友達の8割はGoogleがどれほど儲かっているか知らないし
ビジネスモデルについて知ろうともしない。


同じ27歳の友人で、ついこの間までGoogleの存在自体を知らなかった人もいた。


なぜこれほどまでに断絶がおき始めているのか。


それを打開するために、
「ことば」が重要になってくると梅田さんは言われているように思った。


僕も自分の体験として、
本に出てきた「言語間の壁」よりも、この「ことば」の壁は大きいと思う。


ロングテール」って言われて、
僕の周りの8割の人はおそらく「???」ってなるのだ。


これって結局僕の観点から言うと
「新しいネット社会適応するようなミームを増殖させよう」
ということになるのだけれど、今の時点でコミュニケーションの下地としての共通認識が
圧倒的に足りない世界になりつつあるのだ。


ただ僕個人の意見としては、
「ことば」にはわりと早い段階での限界があるように思う。


特にそれが「不特定多数無限大」の人々へ向けたメッセージとなればなるほど、
梅田さんがかなりの労力をかけてこの本を上梓されたようなエネルギーが必要となる。


なので、不特定多数無限大の人をこれからのネット社会に参加させるために
訴えかける手段はテキストベースではないのかもしれない。


この文章を書いていて、
上述の細胞が自己組織化していく過程は、
僕がいかに筆舌を尽くして書くよりも、
写真をのっけたほうが多分100倍伝わるだろうな、と思って写真を載せた。


今、ネット社会でのコミュニケーションはテキストベースだ。


メールにはじまり、HP、ブログ。
これはPCのインターフェースによるところが非常に大きいと思う。


これからは、ポッドキャストビデオキャスト、スカイプといったものが
ネット社会のコミュニケーションの中での比重を増やしていくような気がする。


そうなると、問題になってくるのは1つ目に戻って
自動的な秩序形成をするのに、
現在の技術ではテキストほどの相互作用を生み出せていないということだ。


この辺は技術の進歩を待つということになるのかな。
Googleが画像検索分野に乗り出してきた理由が最近やっと分かりだした気がする。


ちょっと脱線するが、
なぜ相互作用ということにこだわるのかと言うと、
相互作用が起きることによって、その相互作用の数が増えていくことによって
創発現象、自己組織化が起きる、というのが(僕の思っている)複雑系の考え方だからだ。


それは情報(データ)同士が自動的に勝手にやってくれるのが好ましい。


今のテキストデータでは、それがある程度可能だ。

僕がやりたかったことを実現してくれてしまった
http://kizasi.jp/
こちらのような感じだ。


僕がここ何年間か妄想し続けているのは、
情報の最小単位としての「ミーム」がデジタルデータになっていて、
それが勝手に他の「ミーム」とやり取りができるようなインターフェースをもっていると。


それでこの「ミーム」を不特定多数無限大の人が簡単につくって
ネット社会に放流できるようになれば、あとは勝手に、
ネット空間の中で創発、自己組織化、自然淘汰が起きて勝手に進化してくれるという世界だ。


ある意味、「ウェブ進化論」ですね(^^)


この情報の最小単位となるミームのフォーマットにあたるものを、
日々夢想しているのだ。。



話を戻して最後に感じたメッセージは、
「さりとて夢想ばっかりして、理想ばかりを追い求めて
「こうなるはずだ」と自分だけでつっ走っても、そんなに世の中は甘くないよ。」
ということ。


これはとても大事な視点だと思う。


梅田さんは、本当にウェブ進化を起こしたいのだなと思う。
日本人の起業家精神を沸き起こさせてくれているのだと思う。


その上で、理想と現実とのギャップを見極め、
現実世界で成功できる人間が本当の起業家である、と言われているように思う。


僕が大学の博士課程に行くのをやめて、
ビジネスの世界に行こうと思った時のゆるぎない目標は「起業」だった。


そういう視点で今の会社を選んだが、
(不満はないのだが)じゃぁ今すぐ会社起こせよ、と言われると、
「まだ」と言ってしまう。


本の中で梅田さんは「若い頃はものが見えすぎていないほうがいい」と言っておられ、
確かにベンチャーを起こすというのは、かなり「勢い」と言うのが大事だと思う。
理論なんてあとづけでいいとは思う。


ただ、まだ自分の中で収益モデルというものが見えていない。
特に自分が一番興味を持てる、このWeb2.0的なネット社会では。


今ところ、Web2.0的なビジネスモデルは
みんな最終的には収益が広告になっていくような気がしていて、
それではやる気にはなれないのだ。


別に広告がキライとか言うのではないし、
世の中で「実は広告収入でなりたっている」というビジネスが多い
というのは就職活動をした時に体感した。


でも、このWeb2.0的な世界では、
広告収入を目指して Googleはてな も同じ土俵で競争している
Googleは収益のインフラ的な観点では別次元ともいえるが)。
そこにあまりに素人の自分が入っていく気にはどうしてもなれない。


「赤字で外から資本を入れるよりも、自力で収益を上げて自走するべき」
と、古い価値観かもしれないけれど僕はそう思っている
(学生時代にバイオベンチャーを色々と調べたからかもしれない)。


そういう意味で、今の現実を冷静に見て
これからネットの中で生まれるであろう新しい秩序の中で
なんらかの収益モデルを見出していけたらなぁ、という風に思う。


産業革命の本質が「その時代の人間の価値観、生活の変革」にあるとすれば
また新しいビジネスも見えてくるのでは、、と思ってしまうのだ。


それこそ理論先行で、よくないのかもしれないが。。(^^ヾ



ちょっと膨らみすぎたが、読後感としてはこんな気持ち。
とりあえずどんどん周りの人に読ませて、未来を話し合える人を増やしたい気分になる本でした。

http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20060214