かぐや姫の物語

高畑勲ここにあり。ただただ圧倒されてしまった。

かぐや姫の物語 公式サイト


観終わった時、衝撃で言葉がでなかった。


高畑勲監督は78歳?とんでもない。これは、今、脂が乗り切った監督の野心作だ。何しろ映像に勢いがある。予告編などで使われている月明かりの下を疾走するシーンももちろん勢いはすごいが、それ以外の、野山での日常のシーンがすごい。それは決して全力疾走しているシーンではなくって(走っているシーンは多いが)、子ども達が野山をぴょんぴょん跳ね回ったり、皆で行進をしているシーンだ。こうしたシーンに言葉では言い表せない存在感とリアリティを感じた。


こうした野山のシーンを観ている間ずっと頭に浮かんでいたのは、黒澤明「七人の侍」「椿三十郎」といった映画の風景だ。あの白黒映画の中にある圧倒的な存在感が、ものすごく鮮明に頭の中に浮かび上がってきた。当時の日本映画の文法なのかもしれないが、大自然の野山の中を主人公やその一団が列になって行進し、それを少し引き目のアングルで撮って、ラッパを基調にしたリズミカルな音楽が流れるような、あの感じ。それを観ているとなぜかすごく高揚感を感じ、(時代劇なので)ああ、昔の日本ってこんな感じだったんだなあ、、、なんて思いを馳せながら胸が高鳴る感じ、とでも言うのか、それと全く同じ感じが、まさかアニメーションを観ている中で感じられるとは思わなかった。もしかしたらそれは古き良き日本映画の文法なのかもしれないが、ぜんぜん古くさい物ではなく、逆にこうした高揚感を感じられることこそが、エンターテイメントとしての映画の役割なんじゃないか、と思わされた。


また感性はむしろ若い。これも一昔前の日本映画の文法かもしれないが、「幕末太陽傳」を観た時に感じた勢いが、室内を駆け回る登場人物から感じられた。子どもが家の中をドタバタ駆け回るあの感じや、翁が嬉しさに屋敷内を駆けるあの感じが、生き生きとした庶民として描かれていた。


書いていて思ったが、本作は「飾りなく活き活きと生きる庶民」が、本当に鮮度よく描かれていた。
それを観ていることで、なぜか心が弾み、エネルギーやパワーをもらった気分になれるのだ。日々の生活を慈しみながら、決して楽なことばかりではなくても、日々の暮らしを大切に過ごすことが、どんな極楽浄土よりもすばらしいことであるというメッセージが力強く伝わってきた。


ぼくは鈴木敏夫さんのポッドキャスト鈴木敏夫のジブリ汗まみれ)を初回からずっと聞いてきているので、この作品を作るためのジブリの方々の努力や苦労をなんとなく聞いているが、そうしたご苦労も報われるであろう、本当にすばらしい映画だった。