チッチと子

作家の不安感というものを垣間見れつつ、じんわりと心に沁みた。

チッチと子

チッチと子

石田衣良さんの本はこれまで読んだことなかったのだけど、作家の日常生活が赤裸々に綴られているというところに興味をもって読んでみた。



作家もアーティストなので、売れる人もいれば全然芽が出ない人もいる。
そんな当たり前なことに気付かされた。


新人賞をとって以来10年間さっぱり売れない小説家の主人公は、初版の発行部数を削られたり、担当編集者を外されたり、と作家としては緩やかな下降線。彼自身「書くこと」に自信を失っていく。人気のなさは印税や原稿料による収入によって、数字として示されてしまうので、編集者たちの褒め言葉も彼には虚しく響く。家のローンも残っているし、老後はどうなるんだー、という作家の不安はとてもリアルだ。


でも、純粋に作家の才能を信じて応援をし続けてくれる家族や仲間、編集者たちがいることで、主人公は文章を書き続けていくことができている。


昨日みた Anvil もそうだったけど、こういうアート的な仕事(当たるか当たらないかで天地の差が生じるような仕事)は、周りで見守ってくれる人間のサポートと、本人の根気(それをやる事自体が好き)があって、時間をかけてなし得るものなのだなぁと思った。

小説の意味

チッチと子

チッチと子

チッチと子は、小説家が主人公なだけに出版業界の今の苦しさがそこはかとなく伝わってくる。
確かに考えてみると、本、特に小説は一見なんの役にも立たない。インターネット時代の今、視聴すべき情報はあふれ、高コストな「読む」という行為を必要とする本は、どんどん遠ざけられていく可能性がある。


でも、文中にあった「小説は人の心を動かす力をもっている」という言葉にハッとさせられた。
それが虚構の世界であっても、人は小説を読んで心の何かを刺激され、何かを考える。それが小説の力だ。現実世界で心に大きな傷を負ったときに、それを癒し、歩き出す力を与えてくれるのもまた小説だったりするんだと。
そんなことに気付かされた。


モノがあふれ、情報は瞬時に手に入り、グローバルな労働力はどこまでも安価。これから本格的にそういう時代に突入していくが、そういう時代に求められるのは心を揺さぶられる体験なのではないだろうか。


希望的な観測ではあるけれど、物語を作るという能力が再発見され、再評価される時代がくると思った。