芸術起業論


芸術起業論

芸術起業論

今、日本で一番成功しているであろう村上隆さんの本。


読んでみて(真意を知ってみて)の感想は、
これまでの、日本のアニメが海外でウケルというのをうまいこと使っているのかな
⇒ こんなに深い意図があったんだな。
⇒ こんなにもストイックな人なのか。。。
⇒ こんな成功を収めても、こんなにも苦悩はつづくものなのか。。。


読んでいて、緊張してくる。
身体がこわばってくるのを感じる。
確信犯的な成功を収めるためのしたたかな戦略と、
それを実現するために必要とされる地道な、気の遠くなるような努力。
それらがまざまざと伝わってくる。


そして、全てがうまくいき、成功した先にあるのも
成功者の持つ新たな苦しみ。


一発当てて、あとは好きに作品を作って暮らす、というような
お気楽なゲージュツ家のイメージは全く覆された。
『芸術「起業」論』とはいいえて妙のタイトルだと思う。


僕が感じていたこのプレッシャーは、
自分が起業して、事業を軌道に乗せて、会社を存続させていく、、、
という過程をシミュレートしていったときと全く同様の重さなのだ。


自分の好きなことをやっているだけでは、世間に認められない(商売にならない)。
自分の想いで、その周囲にいる人の運命を背負う必要がある。
何が成功なのか、何がゴールなのか。
終わることのない成長活動。
一度走り出したら止まることは、レースを抜けるまでは、許されない。


。。。などといった、経営者が孤独に戦わなくてはならないであろう要素が、
この本には全てつまっていたように思う。



逆に、世界で大成功を収めた稀代の戦略の思考過程を詳細に説明してくれてもいるので、
ビジネス書として、(欧米人と付き合う上で必要であろう)教養書として素晴らしい。


特に、村上さん自身やジョージルーカス、宮崎駿が作品を作るために
「マネジメント」に専念しているという件。
これがものすごく説得力があった。

ジョージ・ルーカスは、未来につながる方法で、映画を作って います。
マネジメントをしっかりする。
手仕事は徹底した分業とする。
好き嫌いの判断だけを言えるような位置に自分をおいておく。
これは直感を温存できるいい方法です。
この方法は見方によっては、
「手仕事だけをするアシスタントはルーカスの奴隷じゃん!」
と思えるかもしれませんが、手仕事に汲々としないからこそ、
ルーカスは「かっこいい」「かっこわるい」と自由に純粋に好きなことだけを言えるのです。


世間一般の「会社」には、そういったヒエラルキーがすでに当たり前として存在しているが、
それは何故か?そういえば、これまで考えたことがなかった。


どんな会社も、「ブランド」を売っているのだ、と思った。
ものを作っている会社でも、サービスをしている会社でも、組織であろうと個人であろうと、
顧客に「選択」をする権利がある市場では、最終的に売れているのは「ブランド」なのだと思った。


これが「ジョージ ルーカス(Lucas Arts)」であったり、
「村上 隆(KaiKai KiKi)」、「宮崎 駿(スタジオ ジブリ)」となるのだろう。
ルイヴィトンも、グッチもソニーマッキンゼー
みんな同じやり方でブランドを売っているのだ、ということに気づいた。



他にも、天才型と努力型の話や、歴史を知ることの重要性、
文脈を理解することの重要性、才能を極限まで伸ばす方法、など
ためになるメッセージが満載であった。


プレゼンテーションの大事さ、
コミュニケーションの大事さ、といったものが繰返し説かれているこの本は、
平易な文章だが、僕のこころをわしづかみにする迫力は十分に持っていた。