癒しの島、沖縄の真実

癒しの島、沖縄の真実 [ソフトバンク新書]

癒しの島、沖縄の真実 [ソフトバンク新書]


石川県出身琉球新報のベテラン記者が、
ヤマトゥンチュ(本州の人)の視線と
40年間在住したウチナーンチュ(沖縄の人)としての視線の両方から、
沖縄の真実、真情を語る。


著者が新聞記者であるのが、文章からやはり感じ取られる。
簡潔で、読みやすい文章だ。



題名からして、沖縄の生活や秘境といったことについての本かと思っていたが、
どちらかというと社会的な、沖縄の戦後の出来事が語られていく。


お気楽な気分で読み始めたのだが、
これが面白かった。


第一章の「本土復帰前の沖縄へ」は、
著者の半生が、沖縄の激動の戦後と共につづられている。
描写は淡々と事実が連ねられているのだが、
当時の記録映画を観ているようで、
(勝手な想像だが)白黒の映像が目に浮かんでくる。



沖縄は終戦直後から、1972年まで米軍の統治下にあった。
(1972年に姉が生まれたので、このことは僕自身、子供の頃から知っていた。)


27年間。高度成長に沸く本土の人間からは、ほとんど気にとめられていなかったようだ。

小学校五、六年生だったと思うが、
父親にせがんで映画「戦艦大和」(一九五三年六月、新東宝制作、監督=阿部豊、出演=高田稔、佐々木孝丸丹波哲郎久我美子高島忠夫ら)
を観に行ったことがあった。
映画は戦艦「大和」が、米軍が沖縄に上陸した直後の一九四五年四月六日、沖縄作戦のため水上特攻部隊として
山口県の徳山沖から出撃、翌七日、米軍に発見され、米軍艦載機のもう攻撃を受けて、九州西沖で撃沈されるまでの
戦闘の模様を描いたものだった。
しかし、私の頭に残ったのは英雄的で悲劇的な戦闘シーンよりも、
「沖縄を助けに行ったのに、着く前に沈められてしまった。
戦艦大和が来なかった沖縄はどうなったのか」
ということだった。


子供の素直な、真理をつく疑問に答えられる大人はいなかったようだ。
というよりも、そこから目をそらしていたということだろう。
「戦争」を知らない世代として、自分がその状況におかれていたらどうするか、
と思えば言葉もない。
戦争の怖さを、少し感じることくらいしかできない。



著者は1963年頃、大学生の時に沖縄問題に関わり始める。

私が大学に入ったその年の六月、参院選挙があり、沖縄から安里積千代さんが無所属で立候補した。
当時、沖縄の地域政党沖縄社会大衆党の委員長。
安里委員長には選挙権はなく、被選挙権だけが認められるという変則な状態での立候補だった。
日本人であるが、日本領域に住んでいないという理由からであった。

大学一年の夏休み、私はパスポートを持ってひとり、沖縄を旅した。
十九歳のときだった。


米軍の領地である沖縄は、「外国」なのだ。
これまで観光で行って、米軍基地なんかはお気楽に眺めていたが、
ほんの30年ほど前の、異世界が垣間見られる。


この後、著者は沖縄問題により真剣に取り組みたいと志し、
沖縄の新聞社に入社。
以後、戦後沖縄の激動の歴史を、本当に間近で観察しつづける。
その貴重な体験談が臨場感と共に描かれていて、
沖縄で実際に起きていた事実に対して、真摯な気分になる。



と、お堅い話ばかりになってしまったが、
もちろん本書は重い政治の話ばかりではない。
第二章の「異なる南国のリズム」では、
ヤマトゥンチュ(本州の人)の著者が、
沖縄の独特な風習や精神性になじんでいくまでの体験も豊富に描かれている。
これを読めば、ウチナーンチュ(沖縄の人)の気持ちが少し判ってくるような気がする。


第三章「沖縄サミット開催」、第四章「基地の重荷いまも」では
また沖縄独自の政治的なイベントなどの裏事情などが明かされる。
そして最終第五章「気分は新琉球王国」で、
いまだに熱く議論がされている沖縄の「独立」について、著者の想いがつづられる。


この第五章は、他の章ではどちらかというと事実を積み上げて考えを述べていたのに比べ、
著者の想いが強くこめられていた感じがあった。
「沖縄の独立は、まず精神的な独立から」
というメッセージは、
冷静に日本社会を見つめてきたウチナーンチュである著者の切実な願いなのだと思う。



沖縄は日本が世界に誇るリゾート地だ。
海がどこよりもきれいだし、食べ物もおいしいし、人は優しいし。
(僕自身、今日まで沖縄に観光に行っていた)


日本人として、
沖縄がこれまで背負ってきた重荷を知ったうえで、
また沖縄独自の文化(御嶽など聖地があるということ)を尊重したうえで、
沖縄の自然、やさしさに癒してもらいにいきたいと思う。


沖縄観光に行く人には、
というより、なるべく多くの日本人が知っておくべきことが書かれた本だと思う。

癒しの島、沖縄の真実

Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/ルポルタージュ