「アンヴィル!」 自分の人生を生きること

人生の勝ち負けは自分で決めるもの。
成功しているかどうかのモノサシはその人次第だ。

映画『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』

あらすじと感想

25年前、日本で行われた伝説的なロックコンサート。出演は、ANVIL、BON JOVISCORPIONS、MSG、WHITESNAKEスコーピオンズ。(僕はBON JOVIしか知らなかったが・・・。)彼らは当時まだ駆け出しだったが、このコンサートに出演したグループは、その後みなミリオンセールスを連発するビッグバンドへとなっていく。。ANVILを除いて。


25年後、ANVILはメンバーの交代はありつつもバンド活動を続けていた。バンド活動といっても、それで食べていける程度のものではなく、リーダーのリップスは給食の宅配作業員、ドラマーのロブは建設作業員をしていた。


元ガンズのスラッシュや、メタリカのドラマーから尊敬されるほどの腕前をもっていながら、なぜかまったく「成功」できない彼ら。そんな状況にも関わらず、30年間、音楽活動を真剣に続けている。


そんな彼らに(ちょっと怪しい)世界ツアーの話が舞い込み、「何もしないで現状のまま甘んじるよりは行動をする」という精神で anvil はツアーへ。案の定というか、マネジメントがダメダメなせいで世界各地でさんざんな目に合う。メンバー同士ぶつかり合いながらも、数人しか観客がいないライブハウスでも、ちゃんと演奏する姿が切ない。


ずっとそんな感じなのだけど、今の状況を誰かのせいにするでもなく、ただ自分たちの音楽を高めることを目標にひたむきに音楽に向かう、そしていつか訪れる成功のために努力し続けるという姿勢が切ない。



そう、切ない。痛々しくもある。
「夢をめざして、決してあきらめずに努力し続ける」とは、こういうものだという現実が、まざまざと描かれている。ところどころコミカルに描いてはいるものの、冷静に考えると身につまされる思いがする。成功者の光に打ち消されてしまっている、成功していない人々の生活、影の部分だ。


「夢を目指して30年努力し続けています。」というのは立派なことだ。世間の成功本にはだいたい「明確な夢をもって、ぜったいにあきらめずにそれをやりとげましょう」と書いてある。でもそういった本には、いつ訪れるかわからない成功をつかみとるまでの日々がどんなものかは、これ程まざまざと書かれていないと思う。
そして、Anvilを支える家族たちの姿もまた、痛々しい。
さらには、彼らは超一流の実力を持っていて、一度はかなりメジャーにもなっている。それでも、こんな状況になるという現実があるのだ。


そういった観点からも、この映画は見る価値があると思う。


だが結果的に、成功本に書いてあるお題目は正しい。
Anvilは、それを教えてくれている。だが、彼らが教えてくれた大部分はそのお題目の正しさでも信念や意志の強さでもなく、もっと人間として大事なことだったように思う。

自分の仕事とは

リップスもロブも50歳を超えている。
そして二人ともバリバリの現場作業員だ。彼ら自身、音楽をやっている時以外の日常は、「クソみたいなもんだ」と言っている。
映画を観る前には、努力も実力も認められない彼らは、欝屈とした日々の中で生きているんだと思っていた。もっとひん曲がった人たちなんじゃないかと思っていたのだ。


だが、実際の彼らは違った。二人とも、そんなにすれていないようだった。
そして、とても若いのだ。
50歳を超えていて、体形がくずれていたり、髪が薄くなっていたりはするものの、少年のような目をしている。語弊はあるが、作業員のおっちゃんっぽくない。ティーンエイジャーのまま大人になっている感じがした。経済的には全く成功していなくても、好きなことをやり続けているということが、彼らの若さを保っているのだろう。


彼らは人生を満喫しているんだと思う。
家族との時間を大切にしながら、自分のやりたい仕事をし続ける。目標をもって、挑戦し続ける。チャンスにはどんどん手をだしていく。そういうマインドになって行動をし続けているから、彼らの若さは保たれて、人生は(辛くはあっても)充実しているのだろう。


「人生は短い。やりたいことは今やるべきだ」という言葉が心に残った。

経済的な成功のためには

とはいえ、もうちょっと上手なやり方もあったのでは。。というところはある。
Anvilの場合、実力があって、30年も続けられるくらいの根気もある。何がいけなかったのか。


マーケティングとマネジメントだ。
売れ筋のものをつくるべきか否か、時代に自分たちの音を合わせるか否か、その辺はとても難しいところなのでちょっと置いておく。(これもとても大事なことだとは思うけど。)
実際にできた曲を売る術を、彼らは持っていなかったのだ。どんなにいいモノができても、それだけでは成功することはできない。
ツアーに出ても広告も全然出していないから観客がガラガラだったり、そもそももっと大きな会場でやるべきなのに小さいライブハウスでやってしまったりと、「売り方」でものすごく損をしている。
ちょっとネタバレだが、日本であれだけファンを集められる知名度、実力の持ち主のだから、ヨーロッパで観客を数十人しか集められないというのは売り方に問題がある。


ツアーを回っている最中に、このバンドは何度も道に迷って遅刻したり、電車に乗り遅れたり、いろいろと無駄な苦労をしている。一事が万事、旅先では演奏の報酬をもらえなかったり、そういう無駄な苦労がとにかく多いのだ。この辺をうまくやってくれる人がいるだけでも、音楽一本で食べていくくらいにはいけたんじゃなかろうかと思ってしまった。

奇跡を呼び起こす秘訣

Anvil はきっとこれから「成功」していくだろう。

Anvil On A Roll As Film Hits Theaters | Billboard
キアヌ・リーブスが応援していたり、大物プロデューサーたちもついてくれそうだ。これまで欠けていたピースが、やっとそろうのだから。


とはいえ、彼らの成功のきっかけとなったのは間違いなくこの映画だ。


この映画はなぜつくられたか。
観れば分かるのだが、この作品は、「いつまでたっても売れない哀れな中年を面白おかしく描いた映画」では断じてない。
Anvilを愛し、心から彼らを応援している映画なのだ。それが映像から滲み出てくるのだが、エンドロールで監督の経歴が流れて確信に変わった。


監督のサーシャ・ガバシは、16歳の頃に Anvil に憧れ、ローディー(ツアーアシスタントみたいな)として一夏 彼らのツアーに同行している。そこで彼らから受けた優しい扱いを、その後もずっと覚えており、自分が大成した後に、その時の恩返しをしているのだ。


リップスもロブも、本当にいい人なのだ。
メタルのボーカルって、こんなに優しい顔して笑うのかと呆れるくらいに優しい。そんな彼らの周りには人が集まる。家族も、温かく見守り、支援している。
これが一番の「成功」なのだと思う。
コツコツとやっていることを応援してくれる誰かがいてくれるかどうか。それはその人の人間性によってくる。優しすぎるメタルバンドの Anvil は、その大事なものを最初からずっと持ち続けていたのだと思う。



どんな人生を送りたいか。
僕は人生のすべての瞬間を満喫できることが成功だと思っているのだけど、Anvilもそれを体現しているように思った。彼らには、結果的にショウビズ界での成功がついてきたら、それはそれで素晴らしいことだ。

This Is Thirteen~夢を諦め切れない男たち~

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