ルノワールは無邪気に微笑む

これは「本が好き!」の献本ではなく、以前に買ったもの。

日本画家の千住 博さんが読者からの質問に答えていく形式の問答集。


以前に梅田望夫さんが薦めていたので、買ってみて、
一つの問答が5分くらいで読める手軽なつくりになっているので、
ふとした時にちょっとずつ読んできた本。


途中から千住さんの世界にはまってしまって、
出勤前のちょっとした時間や、寝る前なんかに読んでいた。
それは清々しい読後感を得られるからだったのかな、
と読み終えてみて思う。



千住 博さんはのことは名前しか知らず、この本の扉絵で作品も初めて見た。
本を手にとって、その作品を初めて見たときと
本を読み終わって、作品を見るときとでは、全然 感じが違う。


滝の静謐な空気感のようなものは常に感じられていたが、
この作品に取り組んでいる作者の哲学、人間性を知った後では
絵が、静かながらも雄弁に語りかけてくる気がした。
公式ホームページ


その雄弁さは、この本に一貫して流れていた清々しさにも通じる。
芸術家のイメージが、ここでもまた覆された(村上隆さんの本を読んだ時に次いで)。
この人は、本当にまっとうなのだ。


とても健全で、「ああ、こんなマトモに生きていいんだ」と、
良心をほっとさせてくれるような感じを受ける。
斜に構えたり、ニヒルな評論家気取りをする必要はない。
自分の信じた道をしっかりと歩んでいこう、というような気を起こさせてくれる。


今40分かけて全部を読み返してみた。
いい言葉に付箋を貼っていったところ、最小限にしようと心がけて、18あった。


いくつかを抜粋。

結局私たちは常に無尽蔵の新しい出来事の中に生きているのです。
問題はそのことに関して無感動、無意識に受け流してしまっているのではないか、
ということです。

毎日がつまらなくて仕方ない、
それに環境も変えられない、感動も関心も気力もない。
それは薄皮一枚となり合わせで私も等しく持っている状況です。
そのような気持ちになったときには自分の心を変えていくしかないのだと思います。
具体的にどうしたらいいか、
そんなことはわかりません。
ただ私はそのようなとき、いまが人生の本番だ、と思うことにしています。

よい個展や話題になるような絵を描いた後、
長期の休暇と称して休んだり、出し惜しみするように、
まるであたかも自分が高いところに登れたかのように思ってしまって、
そこから模様眺めをする立場に自分を置いてしまい、一息ついてみる、
というようなことをやって、
それで再浮上したひとは一人もいないということです。
(中略)
飛び立ったら飛び続けることです。
そしてできれば少しずつ、もっと高く、高くと。
これは今から世の中に出て行く若い人々にぜひ言っておきたいことですが、
一回目の飛翔はグライダーのように引っ張ってもらったり、
先生方の後押しがあったり、つまり他人の力による部分が大なのです。
自分の力を過信しないようにしたいものです。


言葉に重みがあり、こうやってただ写してしまうだけになってしまう。
自分なりの言葉で他の項目をあげてみると、

不屈の精神力というものは、以外と個人差は大きくない。
それよりも楽天的に問題の解決策を探す方が有効。

  • 芸術家とオタクの違いは、自分が開かれているかどうかということ。

オタクは知っているもの同士の輪の中でだけ、楽しんでいる。
芸術とは万人に開かれているものであり、
芸術家はメッセージを発し続けなくてはいけない。
それが皆に届くように、頭を使うことが大事。

  • 自分が好きな分野を見つける。

これは本当に目から鱗だったので、やっぱり抜粋。

サッカーが夢中になるほど好き、だけどあまり上手ではない。
いつも補欠でレギュラーになれない。
そこでこの分野をあきらめてしまうひとたちがいます。
でもちょっと待って欲しいのです。
これは整理するといくら何でも選手は無理、というだけの話で、
サッカー関連のさまざまなジャンルの仕事は依然大きな可能性を秘めたままです。

こういう思考法が楽観的というのだと思う。



きりがないので、最後にあとがきの一節。

芸術とは、結果として色々なひととつながり、
なんらかのイマジネーションを共有することなのです。


読んでいて常に感じるのは、
これは芸術に限った話ではないということ。
「芸術」を「ビジネス」に置き換えればそのまま通じる。
いや、どんな言葉に置き換えても通じるか。


よく「〜は芸術だ」、
というが、そうなんだなぁと初めて感じた。
「芸術」は人と人とのコミュニケーションであるとすれば、
生活のすべての活動は芸術だ。


ミームというものがあるとすると、その一つの属性として「芸術」が含まれることになる。
人と人との意識にポジティブな感覚として共有されるもの、
そんなものを発信できるようになっていこうと思う。