生物と無生物のあいだ


生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)


自分が初めて研究室に入って選んだテーマが、奇しくも本書の主テーマだった。
endocytosis
細胞が外部から液体などを取り込む際に
細胞膜が陥没し、そのまま内側にくびれて小胞を形成、この小胞をつかって細胞内輸送を行う
という、不思議な機構。


研究テーマを選ぶ時に、この仕組みを図で見て
こんな不思議なことを、全体で数十マイクロメートルしかない大きさの細胞が行っている
ということに驚異を覚えた。
あの頃の記憶がはっきりと蘇ってきた。



本書は、細胞生物学の奥深さ、そのワクワク感、人間ドラマ、(ものすごく)シビアな競争
などの世界を感じるには最適な一冊だと思った。


自分自身で、本書に記されている実験の一通りをやったことがあるので、
それら一つ一つがいかに地味で、大変であるかはよく分かる。
細胞生物学研究は、文字通り肉体重労働でもある。
ウェスタンブロッティング(電気泳動によってタンパク質をぶんりする手法)一つとっても、
その実験を行うのは一日がかりだし、熟練する必要もある。
なにより資料を集めるのには数週間かかることもざら。


そして(他の分野でも層だとは思うが)競争は本当に厳しい。
特に日本では基礎理工分野に対しての補助金は応用工学に比べて出ないので、
職に就けるかも分からないし、食っていくのも大変。



そんな地味で、きびしい細胞生物学をなぜやるのかといえば、
それに見合うくらい、エキサイティングな知的好奇心を満たす分野でもあるからだろうと思う。
巧みな細胞の仕組みは、本当にしびれるくらい巧妙だし、
それを見つける(推理する)過程もとても楽しい。


顕微鏡はすごい勢いで進歩しているが、
それでもまだ、「すべて」を見ることはできない。
だから、細胞生物学は「推理する」必要があるのだ。
こんな楽しい知的ゲームはない。
それは、本当にそう思う。



自分の職業としてそれを選ぶことはやめたけど、
これからもこの分野は好きだと思うし、見ていこうと思う。

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