21世紀の国富論

21世紀の国富論

21世紀の国富論


ベンチャーキャピタル(VC)という職業には興味がある。
どこに惹かれるかというと、VCが新たな事業を興すことを専業としている、
そういうイメージがあるからだ。


本書は、いい意味でもわるい意味でも、そういう自分のイメージを裏切ってくれた。
著者の方はこれまで存じ上げなかったのだが
C-NETに寄稿しているのを読んで、すごい日本人がいるんだなーと思っていた程度)、
世界人的な印象を受ける経歴の人だ。



とても感銘を受けたのは、僕がここ数年間、株式会社の矛盾について
ぼんやりと思ってきたことを明確に指摘して、
NOと言って、その対策まで提案していること(さらにはそれを実行移しているということ)。


それは

アメリカに理想のガバナンスはない

という一節。
アメリカに、というか今の資本主義の考え方に、かな。
要は、
「会社は株主のもの」という考え方が行き過ぎると、会社の目的が株価になってしまう。
その結果、株価に最も連動しているROE株主資本利益率)を上げようとし、
それには研究開発など、成果が出るまでに時間がかかるハードウェア産業よりも
瞬発力が高く、粗利益率の高いソフトウェア業界が適している。
その結果、アメリカからはハードウェア業界がなくなり(日本や韓国などのアジア諸国に下請けするようになった)、
ソフトウェア産業、ひいてはより付加価値の高いサービス産業だけが残るようになった。
でも、目先の財務指標を上げるというマネーゲームに陥った産業は力を失い、
新しい基幹産業を生み出すことができなくなっている。
というような主張。


これには全く同意。
でも、多分、学生の頃の方がこのままいったらそうなるんじゃないかなぁと思っていたけれど、
ここ数年の風潮に流されて、やっぱり高付加価値産業しか生き残れないというようにも思っていたというのが本音。


なので、こんな正論を、昨今の「高付加価値産業万歳」的な風潮の中で
びしっと主張しているところに感動した。
しかもVCという立場で。



そう、僕がVCに対して感じている矛盾がまさにこの点なのだ。
本書の第一章、第二章はこのあたりの、
資本主義の末期における制度疲弊の弊害とその打開策について書かれている。
新しい世界をかいま見せてくれる後半の三、四、五章が非常に面白かったのだが、
いろいろと考えさせられたので、まずはこの一章、二章を。



VCのビジネスモデルは、(各種ステージはあるにせよ)まだ未上場のベンチャー企業に投資し、
上場までのサポートをして、めでたくIPOしたらそのキャピタルゲインを得る、
というものだ。
VCはエンジェル投資家ではないので、
投資をしたら必ずキャピタルゲインを得るなり、買収されるなりしてエグジットを必要とする。


詳しくは知らないけど、多分 投資先企業の収益だけで投資額の回収に当てる、
という選択肢はほとんどないはず。
要は、最も株価を気にする株主になるはずで、
上場も売却もせずに、ずっと会社が成長し続ける支援をする、ということはできないはずだ。


だが、上場することが必ずしもハッピーではないということは、
最近のインターネットバブルを見ていてもヒシヒシと感じる。
なんとなく、(特に最近の日本の)ベンチャーを見ていて
なんで上場させる必要があるのかな?という企業が結構あるように思ってしまう。


まあ、ニコニコ動画ドワンゴという上場企業がついていなければ
あれだけのインフラを維持することはできないというのはよく理解できるのだけど。
そういう攻めの一手を打ち出すための上場ならばいいと思うのだが。。。


チープ革命」はどんどん進んでいて、
ウェブサービスをやるだけの会社であれば
ランニングコストはそれほどかからないので、上場をする必要がないところも結構あると思うし、
上場せずに、自由にやっていてほしいと思う(「はてな」とか)。


なので、このまま先進国が高付加価値産業ばかりになっていくと、
VCは投資する先がなくなって、むりやり上場をさせるようなマネーゲームに陥っていくのではないか、
そんな風に思っていた。
(もしくは、環境やバイオといったイニシャルコストが大きくて、
収益がでるのに時間がかかりそうな分野にVCは移っていくのかなと。)



著者は一貫してソフトウェア産業に投資をし続けてきたとのことなので、
こうした矛盾をどう考えているのかという興味があった。


そのため、著者の「内部留保を研究開発に回し、ソフトとハードが融合した新しい産業を興していくべき」
という提案は、とても前向きだなと感じた。


著者が提唱しているPUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ:
使っていることを感じさせず、どこにでも偏在し、利用できるコミュニケーション機能)は、
確かにそうなっていくだろうな、というように思い、
製造業や組み込みソフト業界の復権という意味で、魅力的な提案である一方、
今の誰でも参加(作成)可能なオープンな世界から、
デバイスとソフトが固有のセットになるという面では少しもったいない気もする。


これは、組み込みソフトのOSにあたるレイヤーと
アプリケーションにあたるレイヤーをうまく切り分けて、
アプリケーションレイヤーでのオープン性を残すようにすればいいのか。
android がその先駆けになりうるのかな。)
その辺は、つくっていく人たちの意志でどうにでもなるのか。



そう本書を読んでいてひしひしと感じるのは、
著者の姿勢としてすごいなと思うのは、「こういう未来をつくるんだ」という確固たる意志。
現状を冷静に分析して、そして未来を具体的にイメージしている。


未来は自分たちでつくるもの。


それが本書の一番のメッセージとして感じられた。