リーダーシップ
最近とてもはまっている。面白くて、すごくためになる。
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1999/01/10
- メディア: 文庫
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今読んでいるのは、日露戦争で日本軍が地獄の旅順攻撃をしているあたり。
旅順を巡る状況としては、
- 旅順はロシアの一大要塞なのだけど、日本陸軍の目標値はより奥地であり、当初陸軍はここを攻撃する予定はなかった。
- しかし、この港に停留しているロシア艦隊を外洋に出してしまうと、日本から大陸への兵の輸送などがままならなくなる。
- そのため、東郷平八郎率いる連合艦隊は、これらロシア艦を全滅させるまでは旅順港湾に釘付けになっていた。
- しかし、何ヶ月も洋上で待機していることは船底に牡蠣がついたりして船の能力を大幅に低下させる要因になる。
- しかも、ロシアが誇る(実態は惨憺たるところもあるのだけど)バルチック艦隊が、この黄海にむけて出向したとの報がはいっている。
- バルチック艦隊と戦うためには、日本(佐世保)にもどって艦を修理する必要があり、それには最低2ヶ月はかかる。
という、ものすごく切迫した状況。
ちなみに、日露戦争では陸軍/海軍のどちらかが失敗すれば、恐らく日本国家がなくなるくらいの常に崖っぷちの状況。
- 旅順攻略は海軍では色々やったのだけど万策つきており、あとは陸軍が陸から攻撃して、湾内の艦船つぶすしか手は残されていない。
- 海軍のリクエストは、あくまでロシア艦隊をつぶせばいいだけなので、旅順全体はいらない。
- なので、近くにある圧倒的に手薄な山(二○三高地)を占拠して、そこから湾内を大砲で攻撃してほしい
という非常に切迫した、国家的にももうこれしかないという状況下にあって、旅順攻撃の担当であった乃木司令部は、この海軍からの要請(大本営からも要請が来ている)を、再三、ほぼ黙殺し続けた。そして、客観的にはどう考えても無謀な正面からの突撃、それも決まって毎月二十六日に行われる突撃を繰り返し、兵を2万人以上、ほとんど無駄死にさせ続けた。
端から見れば、この状況はまったく理解できない。何故?と。
司馬サンは、この原因を伊地知参謀長の頑迷固執にあるとして、文中で非常にきびしくその責を再三書いている。確かに、司令部の命令が絶対と言う軍隊にあって、その司令部が絶望的に無能であるということは、大罪であるというその指摘は、旅順の地に隙間なく、うずたかく積み重なった日本兵の死体の山をもってすれば、重く感じられるものだ。
- 客観的状況を見ずに自説が正しいと頑なに妄信すること
- 司令部は的の砲弾がはるかに届かない場所にあり、現場の状況を司令部がまったく実見していないこと
- 部下の暴走を止められない上司(乃木大将)
- さらにはこの二人の人選をした、陸軍の藩閥人事(薩長のバランスをはかって、この両者は選ばれている)
- 近代戦よりも精神論で、根性で押し切ろうとする陸軍の体質的問題
などなど、この問題について挙げている原因はかなり多くの因子からなり、複雑に絡み合っている。
もちろん、これは司馬サンの見方であり、乃木大将がその後、神格化されているくらいなのであるから違った真実も大いにあったとは思う。それはおいておいて、この話を、この話から読み取れるケーススタディと思ってみると、貴賤の差はあるけれども、現在のプロジェクトマネジメントにおいても学ぶべきところは多いんだと思う。デスマっていうくらいだし。。
藩閥人事と言った組織論的な問題はもちろん最も根深い問題だけど、現場として肝に命じておかなければならないのは、客観的状況を常に把握して、意味のない思い込みに囚われないことだろう。現場を自分の目で見るということの大切さも、そこらのビジネス書を読むよりも、本書を読むと憤りをもって感じることができる。「なんで!なんでそんな当たり前なことをしないの!」と。
極限状態におかれたときにその人の真価が分かると言うが、せっぱつまったプロジェクトに入ったときに、自分がこの陸軍と同じ轍を踏まないようにできるか。結構大事な心構えだと思う。
司馬サンは、この陸軍体質が後の第二次大戦につながったとして、この陸軍体質に対して非常にきびしいことを書き続けているのだと思う。過去の経験からして、極限状態の日本人が陥りやすい集団心理なのかもしれないので、強い感情とともにそれを覚えておくことが大事だろうと思う。いざという時に冷静になれるように。