誰のためのデザイン?
遅ればせながら、読んでみました。
図書館の時間の都合で1時間で読んだので、相当駆け足。
この本は手元において、ちょくちょく読み直すべきな気がした。
誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)
- 作者: ドナルド・A.ノーマン,D.A.ノーマン,野島久雄
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 1990/02
- メディア: 単行本
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1990年に書かれた本書は、ユーザーインターフェース(ユーザーエクスペリエンス)についてのバイブル的な一冊。認知科学者の著者が、日常にあふれている「デザインされたもの」を例にとって、その良し悪しを説明しながら科学的に「よいデザイン」を解説してくれている。システムの設計をする時に、本書に記されているようなことが少しでも考慮されているか否かで、そのシステム(サービス)の使い勝手も大きく変わってくるんだなと、しみじみと納得。
ポットからドアのノブまで、本当に日常品のデザインを取り上げてくれているので、非常に理解しやすい。言われてみれば当たり前なことのようにも感じるのだけど、これまで「使いやすいデザイン」という表現でしかできていなかったことを、理論を背景に説明するというのは、まさに科学。
科学ということは、再現性があるということ。本書の理論をしっかり身につければ、「使いやすいデザイン」が再現性よくできるようになるはずである。。まずは知ることが第一歩だ。。
感想
どんなデザインがいいのか
著者がいいデザインというデザインは、見た目が美しいものではない。本書の中で「おおかたデザイン賞でも受賞したんでしょう」というのは、蔑みの表現としてしばしば登場する。著者はあくまで機能美について、語っている。「説明書をよまなくてもすぐに使えるようなデザイン」というものが、理想的なデザインだ。まったく耳が痛い。
一般的に「シンプルである」ということが、デザインに関してよく耳にすることだ。だが、それは結果であって目的ではない。不要な機能を想起させるようなデザインを極力排除し、アフォーダンスを高めた結果が「シンプル」という見た目になるということだろう。
「シンプル」に関してもう少し言うと、ドアノブに「引」という文字があるのは無駄である、というくだりを読んで気付いたことがある。シンプルなデザインというのは、それを見ている人の思考を煩わせないという利点もあるのだ。「可視化」が大事ということが本書にあるが、じゃぁ、必要な情報をすべて表示するようにしたらどうか。それはそれで、全く意味をなさない、ただの背景になってしまう。つまり、不要な情報を提示するということは、それだけ意識下の判断を必要とし、人の負荷を高めることになる。こういうのが高じて、使っててイライラするデザインになるのだろう。
一般の人の頭にある概念モデルを利用して、ほとんど無意識のパターン認識で反射的に身体が動いてしまうようなデザイン、そういうのが理想的なのかなと思った。
Apple製品はすばらしい?
本書を読んでいて、あぁ、これはApple製品の特長だなぁと思うことが多々あった。
シンプルなデザイン、必要最低限な機能、直感的な操作感。本書を教科書に、忠実にやったんじゃないかと思うくらいに、Apple製品はよくできている。iPod、iPhone は、本書の知識がふんだんにちりばめられているというように感じる。iPhoneはビューアーとしてみれば、かなり完璧な機能がある。
ただし、本書中にも指摘されていたがApple製品が無敵という訳ではない。言われてみれば、、という感じだったが、キーボードショートカットが複雑で分かりづらいということが、本書では指摘されている。Windowsから移行してきた僕としては、たしかにショートカットで結構知らないものがある。メニューバーのショートカットキーの説明が、未だに読めないし。。
バランスも必要
では、シンプルが無敵なのかというと、そんなことはない。多機能なものをつくるには、どうしてもある程度は複雑にならざるを得ないのだ。一つのデザインで表現できる機能は、シンプルになればなるほど少なくなる。最小限の機能のガジェットがたくさんできてしまっても、それを全部持ち歩くわけにはいかないのだから。
その場合には、1つの機能をコンポーネントとしてまとめることになる。すると、次はそれらコンポーネント間の関係が非常に大事になってくる。せっかく1つ1つのコンポーネントがシンプルで使いやすくても、それらがうまく連携してくれないといけない。本書で提示されていた例は、よく使う機能だけが日頃見えていて、たまに使う複雑な機能は隠しておくというデザインだった。
こういう全体のバランス感が大事になってくる。システム系はこの辺が悩みどころだ。
すんなり流れる
デザインは、見た目の美しさではない。それを使用する人間の思考モデルに、どれだけ適合しているかということが大事なんだというように理解した。思考モデルに適合しているのであれば、ユーザーは何らストレスがなく、その機能の結果を利用することができる。ユーザーを知ること、思考モデルを知ることが重要だ。ユーザーの頭の中にはどんな前提があるのか、それに合わせるデザインとはなんなのか。まさに人間工学という感じだ。
とはいえ思考モデルは目に見えない。例えば機構であれば、人間の間接はどう動くかは骨とかを見れば分かるけど、人間の思考モデルがどういう形なのかは、物理的には見えない。なので、これをどう見るか、どうモデリングするかというところに、腕の差がでるのかもしれない。ただし、たんなるUMLとかDFDとか、そういうものではなくって、文化とか、時代とか、そういったものも考慮に含んだ上でのモデリングなんだなと言う風に思った。そういう全体的な、理系文系とかいうよりもっと大きな枠で、統合できることがいいデザイナーになる道なのだろう。ちょっと壮大だけど、なんらかのものをつくる人は皆デザイナーたるべきなので、日々これ精進ですね。
でもまず今日からでもできるのは、「人の思考モデルに沿う」ということを意識して、色々と考える習慣をつけることかな。
以下、印象に残ったところのまとめ。
資料が手元にないため、不正確かも。そして断片的。
人の認知に関する理論
メンタルモデルと概念モデルについて
メンタルモデルとは、人がある対象(自分自身、他者、環境)について理解するモデル。概念モデルはその一部で、概念を理解するために人が構築しているモデル。
人の概念モデルを利用することで、学習の期間を簡易化することができる。
責任追及
人はある対象について、知覚することができないと、それを論ずることができない。例えば、あるシステムを使っていて、そのシステムの操作法がわけわかめな場合、(そもそもそのシステムがどういうものか知覚できていないと)自分の操作法が悪かったと言う風に思いがちである。
一方、人は説明がつくことを好む性質もある。なんらかの問題が発生した時に、一見納得できるような説明をつけられてしまうと、それで満足しがちな傾向がある。この場合の満足は、自己満足にすぎず、問題の本質的解決は先送りされることになる。(飛行機の操縦の場合などに危険。)
行為の7段階
人は、以下の7つのステップに基づいて行為をしている。開始点はこの7ステップのどこからでもあり得る。
- ゴールの形成
- 実行意図の形成
- 行為の詳細化
- 行為の実行
- 外界の状況の知覚
- 外界の状況の解釈
- 結果の評価
行為が困難な事例
ある会議中に発表者が映写機を使ってフィルムを映そうとした。しかし、映写機にフィルムをかける方法が分からず、20分くらい格闘した後、映写技師を呼ぶはめになった。この時の問題である「使いづらい機械」ということを分析すると、こうなる。
- フィルムを映写機にかけるという行為と、映写機のメカニズムとの対応付け(同定)が困難だった。
- 映写機の機能を確認する術がなかった。ラベルとか、マニュアルとか。
- 映写機になんらかの行為をした際に、フィードバックがなかった。(やっていることが合っているのか、間違っているのかが分からなかった。)
対応付け
行為をした際には、なんらかのフィードバックが必要。
- 可視性・・・表示画面は便利。自分がやったことが何か見ることができる。
- 音・・・資格を使えない時には、確認に対して音など、他の感覚をつかってもいい。ただし、フィードバックの音はそれ以上の意味をもつ(ように感じてしまう)ことがないよう。
よいデザインとは
よく検討されている
「よいデザインだ」と言われるものは、デザイナーによって多くの検討がなされているものだ。
- ユーザーがこれを使ってどんなことをしそうか。
- どんなエラーが想定されるか
- エラー時にはどういう対応をすればよいか
などなどを、よく考え抜くことが大事。
使うにあたって記憶が不要
台所のコンロの口と着火スイッチの対応付けや、部屋の電灯とスイッチとの対応づけ。パッと見て分かるようなものであってほしい。それを操作するのに、事前に何かを覚えなくてはならないようなものは、いつまでたっても覚えられない。
シンプル
アフォーダンスがはっきりしていれば、無駄な装飾を省くことができる。(例えばドアのノブに「引」とかかれているようなのは、押せるようにもみえるから、「引」という字を書かなくてはいけなくなっている。)
車のドアノブは、よくできたデザインだ。ああいう形をしていると、指を入れて、決まった向きに引っ張るしかできないんだなと思える。
平均した機能はよくない
たとえば左利きの人向けの定規は、目盛りが右利き用のそれとは逆向きにふってある。中途半端にしても、あまり便利にならない。ターゲットを絞る。
制約
いつでも何ができるのか、何ができないのかが分かる状態にしておく。
可視化
行為の結果や概念モデルが常に目に見えるようになっている。現状を常に評価できるようにしてコントロールができるようにしておく。
これまで目には見えなかったことを、技術を使って可視化するというのも大事な視点。
対応
自然な対応付けを尊重する。
使いやすいデザインの原則
- 外界の知識と頭の中にある知識を利用する
- 作業の構造を単純化する
- 実行と評価を可視化する
- 対応付けを正しくする
- 自然な制約と人工的な制約を活用する