仕事でいちばん大切なこと

ものすごく実用的な一冊。仏教っていいなぁ、と再認識させてくれた。

仕事でいちばん大切なこと

仕事でいちばん大切なこと

最近、うちの奥様が知遇を得た関係で出会った本。
僕は宗教はもっていないけど、仏教はわりと好き。
というようなひいき目をのぞいたとしても、非常に「使える」内容満載な本だった。


書かれているのはスリランカ出身のテーラワーダ仏教ということで、日本の仏教よりもより源流に近いところの、さらに長老の方が著者ということで、「悟りとは〜」的な「教え」が書かれているのかと思いきやさにあらず。
これまた本当に題名に偽りなし、表紙に偽りなしの、ビジネスマンが日常使えることが、とても具体的な実践手段とともに書かれている。
lifehacksという言葉でくくってしまうのは恐れ多いけど、それくらい実用的で具体的。
オリジンの仏教はこういうものなのかなぁと思わされる。


僕が一番使える!と思ったのは「ヴィパッサナー瞑想法」。
名前だけ聞くといかにもな感じですが、意味的には「観察する習慣」。


観察?仏教の話だよね?
本書を仏教書と思って読んでいると、そういう「?」がいっぱいでてくる。

生きている人間には、ありとあらゆる問題が起こります。みなさん頑張っているのだけれど、結果はゼロどころかマイナスという悲惨な状況です。そこを、なんとか解決したい。苦しみをなくしたい。そのための方法が、「観察する」ことです。

え?

考えてみてください。ニュートンは、どうやって万有引力を発見したのですか?リンゴが落ちるのを観察することによってですね。病気になった人を観察して、さまざまなデータをとることによって、医学は発達してきました。「なぜ鳥は空を飛べるのか」という疑問を持ち、深く観察し続けて、飛行機は発明されたのです。人類は観察によって進歩してきたのです。

科学書・・・?

観察によって発見したものは、なんであれ人の役に立ちます。観察によって、人が不幸になったことはありません。
ひるがえって、宗教の世界は観察ということをしません。

と、ものすごく科学的なお話がつづく。
このあたりは純粋に読み物として面白いが割愛して要約すると、観察の対象は自分自身の「生きること」である。そして観察することによる利益は、妄想を絶つことことができることであり、妄想を断つことによって、人は本来の力を仕事に発揮できる、という流れだ。


妄想が仕事の邪魔をしていて、妄想を断つことができれば、仕事の能率も上がる、というこの話は僕にとってものすごく説得力があり、これはぜひやってみたいと思った。この辺の考え方は、ぼくが GTD を習慣にしていく中で身に付いた感覚と同じだ。物事をシンプルに。
今やるべきことに集中する。余計なこと(妄想)を考えていると、それが頭のリソースを浪費する、みたいな。


そして妄想を断つ方法も非常に簡単。
身体の「実況中継」をするのだ。
自分の身体の動きを実況中継することによって、頭の中で無意識に鳴り響いてしまう声(妄想)の邪魔をする。たったこれだけのことだけど、単純で、理にかなったやり方だ。


詳しいやり方は本書に譲るとして、座禅も結局のところ、頭の中から妄想をなくす訓練、所作だったのだなぁということに気づいた。以前に座禅を組みにいったことがあるのだけど、その前に本書を読んでいたらもっと違う体験ができたように思った。本書の教えはシンプルだけど、現実的で、効果的だ。



何年か前にインドに行った時に感じたのは、途方もないどうしようもなさ。どうしようもない貧困だったり、複雑さだったり、大きさだったり。ブッダも2600年前にそうしたことに絶望したのだろう。
でも、そういう絶望は妄想に過ぎず、囚われずに各人が日々成すべきことを淡々と成しながら幸せに生きていくという教えこそが、仏教の始まりなんじゃないかなぁと思った。


なんて、こんな想いも妄想かな。
でも、ふと目を閉じて深呼吸をして、自分の身体を実況中継するという習慣は、精神的健康にもとてもいいと思う。おすすめです。