人間とは何かという問に答える科学

遺伝子と環境のズレを是正することが求められている。

わたしたちはどこから来てどこへ行くのか?―科学が語る人間の意味

わたしたちはどこから来てどこへ行くのか?―科学が語る人間の意味

自分とはなんだろう、生命とはなんだろう、社会とはなんだろう、
そんなとてつもなくむずかしい問いかけに、平易な文章とかわいいイラストで淡々と答えてくれる。答えてくれるというよりは、科学による見方・解釈の仕方をみせてくれるという感じ。

その骨格となる考え方は、人間の中の遺伝子とミームとのバランスだ。僕にはこの考え方がとてもしっくりくる。人間は「利己的な遺伝子」の乗り物であるかもしれないが、それとともに「ミーム」の乗り物でもある。子供をつくる能力がなくなった老人は遺伝子的に見れば価値がないかもしれないが、ミームという視点でみれば伝えられる文化(広い意味での文化)をたくさん持っている盛りである。これだけでも、人が年齢を問わず生き生きと生きる理由に十分だと思う。


それ以外の深淵な質問に対しても、遺伝子とミームのバランス以外にも社会科学や心理学、動物行動学など広範な分野の知見からの見方を提示されている。
ある一つの分野の枠にとらわれずに、これまで様々な分野で積み重ねられてきた「知識」を組み合わせて使って、大きな問題を解いていくというスタンスだということだ。最近の研究は高度に専門家が進みすぎていいて、各々の分野が非常に狭く深く研究されている。いわば「ミクロな科学」だ。それはそれで非常に大事であるということに異論はないが、その結果、一般人には全く理解ができないものとなっており、科学離れが進んでいく。
個々の研究結果を組み合わせて大きな問題を解決するという「マクロな科学」もまた必要とされているのではないか。本書の副題が「科学が語る人間の意味」となっている意図は、そんなところにあるのだと思った。


そして取り組むべき大きな問題の一つは、進化のスピードがゆっくりな遺伝子に対して急速に変化しすぎた現代の環境だ。インターネット社会が始まって、その変化はもっと激しくなっているように思う。そこでいかに人間は適応していけばいいのか。それを是正するのは行動を司る「脳」の力だ。

ミームによる人間の進化。遺伝子が何百世代も何万年も必要とする進化を、人間はほんの数世代、数年で実現できるのです。なんとすばらしい能力ではありませんか。

新しい時代に対しての希望がある。