キュレーションの時代

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)

キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)

現在、日本のウェブ文化を語る上での
第一人者と言っていいと思う、佐々木俊尚さんの力作。


本当に充実した一冊だったので一読をお薦めするとして、
ここでは本の直接の内容については触れない。


本書を読んでいて感じたのは、
著者の佐々木さんが論を進めていくにあたり、
豊富に事例を紹介し、歴史を紐解き、世界の動向を議論するなど、
とても慎重だということ。
それだけ、このソーシャルメディア、キュレーションという話が誤解されやすく、
表面的に消費されうることに気を使っているように感じられた。


TwitterFacebookFoursquare など、
これら現在のソーシャルメディアのインフラを称して、
「世界はソーシャル化した。これからはキュレーションの時代だ。」
というのはたやすい。
知り合いや、影響力のある専門家の言葉がマス広告よりも信憑性を持って広がる世界。
そんな謳い文句は巷に溢れている。


表層に現れてくる現象としては、
それはあまり違っていないように思う。
だが、今現在進んでいるこの大きな変化は、
もう少し深く、人々の行動原理を根本から変化させようとしている。
これは便利なツール上だけの表面的な話ではない。



 技術によって引き起こされる革命は、
その技術が発明された時点では具体的な変化を生じさせない。
技術自体はたしかにイノベーションではあるが、
それが次代を変えるほどのインパクトを持つには、
技術によって人間の行動原理が根源から変わる必要がある。


活版印刷がもたらした革命は、
一部の特権階級に秘匿されていた知識の一般市民への普及だった。


蒸気機関の発明は、
最終的には人間の労働力を機械に置き換えるという発想へといたった。


そして情報化革命、インターネットの普及がもたらすものは、
人々の情報収集活動原理の変化ということになるのだろう。


インターネットによって情報が爆発的に拡散し、
氾濫した結果、それらは徐々に自己凝集を始め、
そこかしこで中程度の大きさの情報の生命圏をつくりつつある。


この「中程度」の大きさというのが、これまでと違っているところだ。
知り合いだけの輪と比べると大きく、
かといって画一的に顔の見えない大衆に対して発布されている情報とも違う。
ある程度、情報の上ではお互いを知っている同士が通じ合う情報になる。
そしてこれは地理や言語などを超越した、目には見えないネットワークだ。
この新たな人と人との関係性の中で、これから個人はどう変わっていくのか。


株主至上な資本主義経済の仕組みが変わっていくことに個人的には期待しているのだが、
これから先のことを考え始めるのに必読の一冊だと思う。