神話の始まり 映画「100,000年後の安全」

未来のことを、自分たちの責任として考えなくてはいけない時代になったことを思い知らされた。

映画『100,000年後の安全』公式サイト

映画「100,000年後の安全」はフィンランドに建造中の核廃棄物地下保存施設を題材にしたドキュメンタリー映画だ。
地下500メートルほどの深さに1つの街程の広さを持つトンネルをつくり、そこに核廃棄物を「永久」保管する。2020年から操業が開始される予定で、現在はダイナマイトを使った発破でトンネルが掘り進められている。

使用済み核燃料などの核廃棄物は、今後の原子力エネルギー利用に賛成であろうと反対であろうと避けては通れない、すでに存在している解決しなくてはならない問題だ。現在、世界にはおよそ25万トンの核廃棄物が存在している。福島原発でもそうだったように、「中間保存形態」として使用済み核燃料はプールに保存されている。だが地上は様々な要因で環境が変わるため、安全な保管場所ではない。(本作は2010年に作成されたが、はからずも福島原発でそのことが証明されてしまった。)そこで核廃棄物の廃棄場所として宇宙か地下かが考えられるのだが、宇宙へは輸送中に事故があった場合の被害が大きいため、最も安全な廃棄(保管)場所として地下が選ばれたというわけだ。


この映画で焦点を当てられていることが、核利用の是否ではなく、将来の人間への伝承であることだったのが興味深かった。*1
フィンランドの核廃棄物保管施設「オンカロ」に保管される使用済燃料の放射線レベルが、半減期を経て無害なレベルになるには10万年かかるらしい。10万年というのは現代の文明社会の歴史を考えると、途方もなく長い時間だ。今から10万年前は、人間の祖先であるホモ・サピエンスがアフリカを出て世界各地に拡がった頃らしいということを考えると、今から10万年後にどうなっているのかは想像すらできない。
フィンランド政府などでオンカロ計画の際に議論を重ねてきたメンバー達は、10万年後を検討の範囲に入れていた。今から6万年後から氷河期が始まるということで、一度、現在の文明は途絶することを視野に入れていた。その後で、後の人間、知的生命体がオンカロを発見し、掘り起こすことがないようにするにはどうすればよいかを真剣に検討しているのだ。石碑や石室を残し、象形文字や絵を描いて危険を知らせる。こんなSFの出来事が現実になっているということに驚かされた。これは「神話の創世」の瞬間なのだなと改めて思わされる。古代文明が制御できずに地下深くに封印したエネルギー源なんて、ゼノギアス に出てきそうな話だ。


数万年の後、この施設が忘れ去られてしまってから、後の人類がこれを見つけたらどうなるだろうか。今でいえば、巨大な地下ピラミッドが雪原の地下500メートルに発見された!ということになり、世界中が沸きたって発掘をするだろう。ちょうど最近 暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで という本を読んでいたので、どんなに複雑で解読不可能とされた暗号でも、ほとんど必ずといっていいほど解読されてきた歴史を思えば、オンカロもいつの日か掘り起こされる日が来るように思える。願わくは、その際に現代の人間が残したメッセージを読み取り、正しい対応をしてほしいものだ。


「正しい対応」技術が進歩して核廃棄物を処理できるようになっているということだ。科学文明の進歩を考えれば100年や200年先には、オンカロは杞憂に過ぎなかったといえることがあるかもしれない。(日本政府の対応を見ていると、そういう問題解決の先送りが感じられる。。)だが自分たちの時代で処理しきれないものを、処理を将来の子供たちに任せて自分たちはその恩恵だけにあずかっていていいのだろうか。もうすでに起きてしまった問題ではあるが、改めて考えさせられる映画だった。


同じ映画館でやっていたこちらが観たくなった。
映画『セヴァンの地球のなおし方』公式サイト

*1:ちなみに本作は各国の映画賞をとっているが、演出がちょっと凝り過ぎていて、個人的にはその辺は好きになれなかった。