資本主義とアートとクリエイター 〜 Exit through the gift shop

Banksy という才能に、惚れました。

現代を代表するストリートアーティスト Banksy が作成したドキュメンタリー映画。恥ずかしながらこれまで Banksy を知らなかったのだが、映画の中で出てきた絵をいくつかみただけで、そのセンスのよさには脱帽した。現代アートテロリストと呼ばれ、大英博物館やテート・ブリテンに自分の絵をこっそり展示させたり、イスラエルのガザにある「壁」に命がけで落書きをしたりと、身体を張ったパフォーマンスをしているところも現代アーティストっぽさを感じさせてくれる。(パフォーマンスというよりも大がかりな「イタズラ」をしているような印象が強い。)


作品についてはいくらかたるよりも見た方が早いです。こうやって下手な解説じみたものをやろうとしていると、絵って一瞬でですごい情報量を与えられるんだなあ、と思わされる。
banksy - Google 検索


ちなみに僕はアート全般にそんなに詳しくないですが、村上隆さんの本を読んでいたので色々と解釈ができました。(解釈が合ってるどうかは知りません。)現代アートってよくわからないという方は、こちらを読んでから行った方がよいです。

芸術闘争論

芸術闘争論

なお、映画の内容について書こうとすると、どうしてもネタバレしてしまうので映画を見ていない方は以下見ない方がよいです。 ;)


Banksy という希代のクリエイターは、この映画を通して MBW (Mister Brain Wash) という現代アーティストを1人「作り出した」というのがこの映画の正しい見方なのかなと思う。


ティエリーという特に才能がない(と周りの人たちは言っている)友人に、「アーティストになるべきだ」といってその気にさせて、最終的に一夜にしてLAのトップアーティストににのしあがらせたのだから。ティエリー自身も、作品づくりについては暴走しているところもあるが、メディア戦略については非常に優秀な人だと思った。もともとアーティストの映像撮影をしながら古着屋の経営を10年以上続けられてきているのだから、ビジネスマンとしては優秀なんだろう。


ではティエリーの作家性はどうか。
作品制作の際にティエリーは手を動かしていない。アーティストの卵のスタッフを何人も雇い、アイディアを伝えて作品を作らせ「選定」をするのがティエリーというアーティストの仕事だ。
そういう彼の作家性に対して、他のアーティストたちは戸惑いながらも「あいつが成功しているというのは悪い冗談だ」と否定的なコメントをしている。だが、その後のマドンナとのコラボや最近ではRed Hot Chilli Peppers とのコラボをするなど、商業的にみれば MBW は文字通り「大成功」している。そしてその作品はそれだけ大衆に支持されているということだ。


こうしたコンテキスト(作品自体は模造品の寄せ集めで俗悪の極みのようなものであるが、資本主義の流れに乗って世間的には大芸術家とみとめられている存在 → 洗脳(Mr. Brain Wash))を作り出すこと全体が、Banksy の一つの壮大なイタズラなのだ。


Banksy自身は画力はかなりしっかりしているように思えるが、商業ベースの現代アートという分野では画力はあまり求められていない。(というより大衆は理解ができない。)代わりに評価されるのは、いかに話題作りができるかということだ。だからMBWの作品は個々に見れば価値のないものなのだが、結果的には大衆に受け入れられた。
話題作りが何より大事なこの世界の中では、作家自身の人生も一つのパフォーマンスとして注目されている。そういう中で、ティエリーは非常にうまく立ち振る舞った。
ただしキャリアがないティエリーに欠けていた彼の「人生」というピースを埋めるために、Banksy はこの映画を作ったのではないか。
この映画の主役はティエリーだ。それは映画の冒頭に Banksy 自身が語っている。
そしてそれと同時にこの映画は Mr Brain Wash というアーティストがいかにして生まれたかということを克明に追ったドキュメンタリーになっている。この映画を見た人は、MBWのストリー性を理解し面白いと思うだろう。。


こうしたことを全部計算づくで Banksy はやっているように思えてならない。


ティエリー自身はどこまでそのことを分かっているのか。
Mr. Brain Wash という名前を(彼がつけたかどうかは不明だが)彼は正確に理解している。それは映画の中で MBW の説明をしている際に「世の中の全てのものは洗脳されているんだ」ということをいっていたことから分かる。おそらくティエリーは全て分かってやっているんだと思う。(スタッフに対する傲慢なキャラクターとかは別として。。)


「世の中の大事なことは表に出ない。でも、メディアは表面的なことしかみない。」
文字通りこの言葉を皮肉った映画・活動なのだ。