天神祭にいってきた(3)

船渡御

夕方になっていよいよ今回の旅のクライマックスである船渡御の時間になった。
川沿いのビアガーデンで休憩していたのだが、風が気持ちよくってついつい時間ギリギリになってしまった。また福島の被災者の方も招待されており、そのかたのお話などを聞いていたので時間を忘れてしまったのだった。その方自身はこういったお祭りに自分だけ参加されることに大変遠慮を感じていらっしゃったそうだが、周りの方の勧めもあって今回いらっしゃったとのこと。天神祭全体でも東北大震災の被災者の方を100名ほど招待していて、そういった方々が少しでも元気づけられるれば、素晴らしいことだと思う。祭りの自粛は電力や警官の配備などで自粛せざるを得ないケースについては理解できるか、本来は庶民を元気づけて一年間の活力を得るためのものなのだから、こうやって開催することはよいことだと思う。



大川沿いの船着場に到着するとすでに船は到着しており、それぞれにびっしりと人が乗り込んでいた。船、というよりは巨大な板の間が川に浮いているというようだった。
船の上には隙間なくパイプ椅子が並べられていて、僕達が載ったときにはもう9割方の人がそこに座ってお弁当を食べていた。僕達も席について、お弁当と缶ビールをもらう。榊講の方々なので、普段はお花屋さんの方々がこの船の運営も切り盛りされている。「花 売ってるほうがよっぽど楽じゃ」と笑いながら言っていた。
今年は例年よりは涼しいということで、風の流れる川の上にいるのは気分が良かった。



もらった弁当を食べていると、マイクスピーカーから司会の挨拶が聴こえてきた。この船には後ろに立派なスピーカーが立てつけてあるのだ。ここで演歌などがBGMで流れていたらこの先の雰囲気もだいぶぶち壊しになっていたかもしれないが、そこは皆さん良いセンスをされているのか、神様のお供船だからなのかBGMはなく、そういった心配はせずに安心して祭りを楽しめた。
僕達の船の司会は、落語家の桂壱之輔さん。非常に軽妙な語り口の方だった。噺家を船に乗せて一杯やりながら川を下る、なんとも粋である。江戸時代の上方の豪商の遊びもこんな感じだったのだろうかなどと思いをはせながら話しを聞いていた。

船渡御の際には100艘ほどの船が出て、それぞれ出発地点がことなっているが大川の中で一本の経路をぐるっと一周する。そのために途中で数多くの船とすれ違うことになる。また途中でいくつもの橋を通り過ぎるが、その橋の上にも人がびっしりといる。(船に乗らない人達からすれば花火大会なのだ。)こうした人たちとすれ違う際には、大阪締めという手拍子を打つことになっているのだという。
手締め - Wikipedia

大阪締めは大阪を中心に行われている手締めである。大阪では「手打ち」という。
一般的な流れ
「打ーちまひょ」 パンパン
「もひとつせ」 パンパン
「祝うて三度」 パパン パン
「おめでとうございますー」パチパチパチ…(拍手)

このレクチャーを最初に受ける。
実際このあとひっきりなしに船や橋とすれ違ったので、5分と開かずに大阪締めをし続けることとなった。とはいえ、ただ船に乗ってぼーっとしているよりもずっと楽しい。こうしたはからいも粋だなあと、初めて触れる上方文化に関心することしきりであった。



船が出航すると、そよそよと川風が流れて大変に気分がよい。宵の口の川をゆっくりと進んでいく。僕はお酒が弱いのですぐに酔いが回ってしまったが、少し川の風にあたっていれば気分は良くなる。川遊びというのはいいものだ。
早速幾つかの橋を超え、船とすれ違って大阪締め。「参加している」感がお手軽に味わえて楽しい。
ここですれ違った船も、陸渡御に負けず劣らず多様であった。
講がだしている船はもちろん、企業や大学が出しているという船もある。錨を降ろして川の真ん中に固定して篝火(かがりび)を焚いている船(篝火講)、船の上に舞台をつくってお能を舞っている船、文楽を演っている船、企業の広告兼舟遊びの船、、、とそれぞれ個性を持った船と次々とすれ違っていく。
神様の船もちゃんといる。お神輿がそのまま船に乗っているのだ。移御された天神様は本当に全部の祭りに参加しているのだった。神様の船とすれ違う場合には大阪締めはせずに、二礼二拍手一礼で通り過ぎる。


そうこうしているうちに、花火が打ち上がった。最初は僕達の船からは花火は見えず、ただ打ち上がった音だけが聞こえてきた。大阪の町の条例で、あまり高くはあげられないらしい。
その代わり花火は川の沿道であげているので、本当に目の前、真上で上がる。僕がこれまで見た中では一番近くで上がった花火だった。シュバッ、シュバッ、シュバッと花火が打ち上がる音が間近に聞こえる。船がちょうどいい位置にくると最高の長めが楽しめる。うーむ、これは本当に贅沢な気分だ。と、次の船がすれ違うので大阪締めをする。また花火を見る。お酒を飲む。また大阪締めをする。。なかなか忙しいが、大満足の船渡御参加だった。


つづく