複雑な世界、単純な法則(5)

途中があいてしまったが、読了。

複雑な世界、単純な法則  ネットワーク科学の最前線

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線

やはり大満足な内容。


内容についての所感の前に、
この本を読み終えて思いついた一つの、大きな思いつき。


今の産業革命の本質は、
色々な事象がネットワークのリンクによって成り立っているということが科学的に分析され、
それを変えられることができるようになった

ということではないだろうか。


どういうことかを少し説明しないといけない。


以前、ドラッカーが産業革命の本質について分析したことを書いた。

その時にまとめた文章を引用すると、

1700年以降、わずか50年の間にテクノロジーが発明された。
この技能から技術への劇的な変化を可能にしたのは、
ドゥニ・ディドロ、ジャン・ダランベールが編纂した「百科全書」だった。
この書籍は、技能に関する知識を体系的にまとめてあり、
このおかげで、徒弟となって技能を体得しなくても
誰でも技術者になれる可能性が生まれた。

経験を知識に、
徒弟制を教科書に、
秘伝を方法論に、
作業を知識に置き換えた。

これこそ、やがてわれわれが産業革命と呼ぶことになったもの、
すなわち、技術によって世界的規模で引き起こされた社会と文明の転換の本質だった。


産業革命の本質は、蒸気機関でもなく、鉄道でもなく

経験を知識に、
徒弟制を教科書に、
秘伝を方法論に、
作業を知識に

ということだ。


暗黙知形式知化ともいえる。
「技術ではない」ということがミソ。


これを現在の状況に置き換えるとどうなるんだろう、
と頭のどこかにずっと残っていたのだが、
今回、この「複雑な世界、単純な法則」を読んで思いついた。



現在、ウェブの技術が世界中で社会と文明を変換させている。
ウェブという技術が現代の蒸気機関になりつつある(とここでは言ってしまう)。


ウェブの「技術」によって変えられるものは何か。


人と人と間にある「思考」のリンクだ。
これまでもスモールネットワークの構成を保っていたが、
インターネットができたことで、全世界中の人間関係のリンクは大きく変動した。


e-コマース企業や、Googleなどは、
リンクが変わったことによる変化にビジネスをのせたということになる。
だがまだリンクを意図的に変えているという企業は少ない。


ウェブ技術で、
これまで出会うことがありえなかった「思考」と「思考」が頻繁に出会うようになり、
人間社会のリンクの分布図は大いに変化した。


この「リンクの変化」が今回の革命の本質だと思う。
そしてこれから、
複雑系の研究が進むにつれてか)このリンクを意図的に変更、設計することが可能になることが
本当の大変化の完結状態なのだと思う。




前の(蒸気機関の)産業革命で何があったかといえば、
ドラッカーの指摘どおり、それまで暗黙知だったノウハウが形式知に置き換えられたこと。
それともう一つ思うのは、
「蒸気が物を動かすことができる」というような物理学、広くいえば科学の台頭だ。




自然現象を科学的に分析して、応用することをビジネスに結びつける
ことも大きな変化だと思う。
暗黙知形式知ということから始まり、要素還元主義科学のビジネス応用へと発展した。
個別の要素としては、物理学、化学工学、機械工学などがビジネス応用されている。



今回の産業革命でそれにあたるものは、
まず一つが、
これまで感覚的に理解されていたネットワークの影響が科学的に説明された(されつつある)こと。
そしてもう一つが、
ネットワークを通して広がる人間の思考への理解、応用だと思う。



ネットワーク理論の認識から始まり、複雑系科学のビジネス応用へと発展するのではないだろうか。
個別の要素としては、ネットワーク科学、脳科学などがビジネス応用されていくのでは。



そんな仮説を、強く思った。



ネットワーク科学の具体例として
「単純な世界、、」の本文中で、
エイズを始めとした感染病が爆発的に広まった過程を考察した件がある。


それはティッピングポイントという、非常にシンプルな数学的法則にのっとている。

問題の核心は、一人の人間が感染したとき、その人物が直接感染させる人は平均すると何人になるかということなのである。
(中略)
数学上はきわめて単純だ。
もしも一人の感染者から生じる二次感染数が一より大きければ感染者数の数は増し、
その伝染病は急速に広まることになる。
逆に一未満であれば病気は終息していく。

つまり、「一人」を超えるか否かがこの感染病の行く末を決定する因子であり
この場合、「二次感染者数一人」がティッピングポイントなのだ。


このティッピングポイントの考えは、
原子の分裂が他の原子の分裂を誘起する核分裂反応や、
人の思考の伝播である流行など、
様々な現象にあてはめると非常に類似性を見出せる。


そしてティッピングポイントを変える大きな因子は、
ネットワークのリンク構造の変化なのだ。


1960年代からアフリカでエイズが急激に蔓延した理由、
1968年に香港で発生したインフルエンザが6ヶ月で世界の50カ国以上に広がった理由、
などいくつもの事例が、不思議な偶然の一致を見せている。


それらはどれも、
ネットワークの中の弱い絆(長距離リンク)が追加されたことが原因のように見えるのだ。


現在はまだ「偶然の一致」を出きっていないこれら理論が、
今後どうなっていくかが非常に注視すべきことだ。


そして個人的には、

ダンカン・ワッツとスティーブン・ストロガッツが発見したように、
長距離リンクを数本加えるだけで、それまで規則的なネットワークだったものを
スモールワールドにするには十分である。
また、アルバート=ラズロ・バラバシとレカ・アルバートが気づいたように、
成長のパターンとして考えられる最も単純なもの、
すなわち、もっとも豊かでもっとも人気のあるものほど
さらに豊かになり人気を獲得するというパターンは、
ワッツとストロガッツのものとは若干種類を異にするスモールワールド・ネットワークをもたらす。

ここにあげた二つのきわめて単純な規則から、
さまざまなスモールワールドが生じるのだが、
これはけっして偶然の一致ではない。

このあたりをビジネスに結びつけてみたい。


それがここ数年、頭の中に常にあるモヤモヤなのだと思う。