科学も人のやること

そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命

そして世界に不確定性がもたらされた―ハイゼンベルクの物理学革命

不確定性原理はむずかしかったけど、これを読んで思ったのは、厳密な数式で表されている科学も人の思いがつくりあげてきたことなんだなということ。


相対性理論だとか、ボーアの原子モデルだとか、それが厳然たる自然界の法則だと単純に思っていたことも、それを考え出した科学者たちが、各人の思いを載せて数式(科学)という言語で自然を記述してきたことだったんだなと。この本は、これまで気づかなかった自然法則式の裏にいる「人間」をとても鮮やかに浮かびあがらせている。「数式/科学は万国共通の言語」「真理は一つ」とか思っていたけど、科学者たちがみな個人的な感情に突き動かされているところもあって面白かった。どんな大学者、大賢人も人間だもんね。


それと同時に、後半から存在感を一気に増してくる二大巨頭、ボーアとアインシュタインの一徹さみたいなところには敬服。(特にボーアは)科学というより哲学的な議論になっていた面もあるみたいだけど、二人はそれぞれの信条を貫き通している。
自然に対して科学は何ができるかという立ち位置の比較が分かりやすかった。
アインシュタインが「科学はいかに自然を記述することができるか」
ボーアは「科学は自然から何が言えるか」
禅問答のようだけど、なるほど、と。


不確定性原理を頑なに否定し続けるアインシュタインのモチベーションも、「不確定というのは、今の自分たちに理解ができていないだけ。不確定性があるなんてことを認めてしまっては、人間がそれ以上真理を追究することを止めてしまう」ということを憂えた悲痛な叫びなんだなと思えて、だんだん好感が持ててきた。


ボーアも、主役のハイゼンベルグも、シュレディンガーもドブロイも、大学一年生のころに名前だけ聞いた人達が、ものすごく人間味たっぷりにでてきてそれだけでも楽しめた。不確定性原理量子力学について理解できたかというと。。。。だけど、これまで受けた物理の講義が色々と思い出されて、あー、そういうことだったんだー、みたいな発見はたくさんあった。大学一年に読んでたらよかったかも。(全く意味が分からなかったかもだけど。。。;)


シュレディンガーの猫というのが、量子力学の代表的概念と言うか、それに対する反論として用いられたことと、どの辺に矛盾というか不適切さを孕んでいるのかということが何となく分かるようになっただけでもよしとしとこう。